不動産会社から「実はもう一人、契約したいという方がいて」と言われた瞬間のことを、いまでも覚えています。内見のときは13万円だったはずの家賃が、契約直前になって14万円に変わっていました。断る勇気もなく、そのまま判子を押しました。
この記事では、2014年に自分の院を開業したときに実際に経験した物件探しの過程を、条件の決め方から内見での見落とし、家賃交渉で押し切られた失敗まで、正直に書きます。読み終えるころには、物件を見に行く前に何を決めておくべきか、内見で本当に見るべき場所はどこか、家賃が妥当かどうかをどう判断すればいいかが分かるはずです。
結論から言うと、物件選びで大事なのは「譲れない条件を先に絞ること」と「建物の古さを内見で徹底的に見ること」です。この2つを怠ると、契約してから後悔することになります。
根拠は、14年前に自分自身が経験した、決して褒められたものではない物件探しの実例です。うまくいった話だけでなく、押し切られて失敗した部分も含めて書きます。
駐車場と家賃、譲れなかった2つの条件
物件を探すとき、最初に決めたのは「駐車場があること」と「家賃の上限」の2つでした。
整骨院は車で通う患者さんが一定数います。近隣にコインパーキングがあっても、施術のたびに駐車料金がかかると考えると通院のハードルになりますし、雨の日や高齢の患者さんほど、院の目の前に停められるかどうかを気にします。駐車場は集客に直結する条件だと判断しました。
家賃については、開業資金の計画上、月々いくらまでなら出せるかを先に決めていました。詳しい金額の内訳は整骨院の開業資金は総額いくら?2014年開業の実額内訳と、かけすぎて後悔した項目に書いていますが、家賃は毎月確実に出ていく固定費です。患者さんが来ても来なくても発生するお金だからこそ、上限を先に決めておかないと、物件を見ているうちに感覚が麻痺してしまいます。
立地・広さ・築年数など、見るべき条件は他にもたくさんあります。ただ、全部を同じ重みで検討しようとすると、決められないまま時間だけが過ぎていきます。まずは自分にとって譲れない条件を2つか3つに絞ることが、遠回りに見えて一番早い決め方だと感じています。
物件は不動産会社の紹介より「募集看板」で見つかった
物件探しは、不動産会社に何件か問い合わせて、紹介された物件を見て回るところから始めました。ところが、実際に契約することになった物件は、その中の1件ではありません。
たまたま車で通りかかったときに、空きテナントに貼られた「テナント募集」の看板が目に入りました。気になってその場で控えた番号に電話をかけ、不動産会社に問い合わせたのが最初の一歩です。不動産会社に依頼して紹介を待つだけでなく、自分の足や目で気になるエリアを回ってみることにも意味があると、このとき実感しました。
理由は単純で、不動産会社が把握している物件がすべてではないからです。貸主が看板だけを出して情報を出し切っていない物件や、掲載されたばかりでまだ広く出回っていない物件は、現地に足を運ばないと出会えません。開業したいエリアが決まっているなら、そのエリアを実際に歩いたり車で回ったりする時間を、探し方の選択肢の一つに入れておく価値はあります。
複数の不動産会社に問い合わせておくことと、現地を自分の目で見て回ること。この両方をやったからこそ、最終的にちょうどいい物件に出会えたのだと思っています。
内見で本当に見ておくべきは、建物の「古さ」だった
内見のときに一番見ておくべきだったと、いまになって思うのは、建物の老朽度です。
契約した物件は、しばらく使っているうちに雨漏りがするようになりました。エアコンも故障し、交換や修理の対応に追われた時期があります。どちらも、内見の段階でもっと注意して見ていれば、ある程度は予測できたかもしれない問題でした。
内見のときは、間取りが施術スペースとして使えるか、駐車場の広さは足りているか、家賃は予算内かといった条件面に意識が向きがちです。もちろんそれらも大事ですが、天井や壁のシミ、設備の年式、外壁の状態といった「建物そのものの古さ」まで意識して見ている人は少ないのではないかと思います。
いま同じ立場で内見をするなら、天井の雨染みの跡がないか、エアコンや給湯設備がいつ設置されたものか、貸主や管理会社に確認します。契約前の小さな確認が、契約後の思わぬ出費や休診につながるトラブルを防ぐことにつながると、身をもって学びました。
家賃の妥当性は、坪単価と駐車場込みかどうかで判断した
家賃が妥当かどうかは、周辺の相場と比べて坪単価がどれくらいかを基準に判断しました。同じエリアで似たような広さのテナントがどのくらいの家賃で出ているかを、不動産会社に聞いたり自分で調べたりして比較しています。
もう一つの判断材料になったのが、駐車場が家賃に込みだったことです。この物件は駐車場4台分が家賃に含まれていました。駐車場を別契約で借りるとなると、月々さらに費用がかかります。坪単価だけを見ると割高に感じても、駐車場込みという条件まで含めて考えると、トータルでは納得できる水準だと判断しました。
家賃の妥当性は、金額だけを単体で見ても答えが出ません。坪単価という物差しで周辺と比較すること、そして駐車場や共益費など「家賃に何が含まれているか」まで含めて、実質的にいくらかかるのかで判断することが大事だと感じています。
内見時は13万円、契約直前に14万円に上げられた
ここからが、正直に書いておきたい失敗談です。
内見の段階で不動産会社から提示されていた家賃は、13万円でした。ところが、契約の手続きを進める直前になって、「他にも契約を希望している方がいる」という理由で、14万円に引き上げられました。
驚きましたし、納得はしていませんでした。ただ、他にも希望者がいると言われると、ここで断って別の物件を一から探し直す時間も惜しく、結局そのまま14万円で契約してしまいました。
いま振り返ると、ここで一度立ち止まって、本当に他に希望者がいるのか、他の物件と比較してもこの条件で妥当なのかを、冷静に確認する余地はあったはずです。開業を急ぎたい気持ちが先に立ち、交渉の余地を自分から手放してしまったのだと思います。
物件探しの終盤は、早く決めたいという焦りが判断を鈍らせます。金額が変わる場面では、いったん持ち帰る、他の選択肢と比較し直す、という一呼吸を入れる余裕を持っておくべきでした。
まとめ
物件選びで重視したのは、駐車場と家賃の2つの条件でした。物件は不動産会社の紹介だけでなく、現地で見かけた募集看板がきっかけで見つかっています。
内見では、間取りや家賃といった条件面だけでなく、建物の老朽度まで見ておくべきでした。雨漏りやエアコンの故障は、契約後に実際に困った問題です。家賃の妥当性は、坪単価での比較と、駐車場など何が含まれているかまで含めて判断しました。
そして、内見時に13万円だった家賃が、契約直前に14万円へ引き上げられた経験は、いまも心残りです。開業を急ぐ気持ちが強いほど、金額が変わる場面ではいったん立ち止まる余裕を持っておくことをお勧めします。
開業資金の全体像については整骨院の開業資金は総額いくら?2014年開業の実額内訳と、かけすぎて後悔した項目に、費用の内訳とあわせて詳しく書いています。物件選びは、開業後何年も続く固定費を左右する、開業準備の中でも特に慎重になるべき工程だと感じています。
なお、この記事は私自身の1件の経験に基づく内容です。物件の条件や家賃交渉の相場観は地域や時期によって大きく異なるため、実際の判断は不動産会社や信頼できる専門家にも相談しながら進めることをお勧めします。


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